ベトナムはまだまだ若い国なのか?
TV番組特集や旅行でホーチミンやハノイなど大都市を観た人の目には、”若くてエネルギッシュなベトナム”の印象が強いでしょう。
しかし、2019年の65歳以上の高齢者の割合は人口比7.7%(740万人)であり、既にWHO基準の”高齢化社会”であるのです。そして、世界有数のスピードで高齢化が進んでおり、歴史上類を見ない速さで”高齢社会”へと向かっています。
今回は、ベトナムの介護市場を社会構造や問題点を交えてビジネス視点で考察します。
背景
日本を上回る急速な高齢化と介護ニーズの顕在化
ベトナム保健省の報告によると高齢化スピードは世界で最も速いと予測。2011年に人口高齢化の期間に入り、60歳以上の高齢者の割合が人口の10%を占めている。現在1,000万人以上の高齢者がおり、2030年までに1,900万人近く、2050年までに2,800万人以上になり、日本を上回る早い速度で高齢化が進むと予測される。
*ベトナム政府は60歳以上と高齢者と定めている。
しかし、高齢者向けのヘルスケアシステムは急激な人口動態の変化にまだ追いついていない。高齢者介護は、基本的には戸籍のある地域の病院で診察 を受けるが、実際には「介護が必要なので」病院へ通う様な患者は少ない。 身寄りのない高齢者が介護を専門としている老人ホームに入ることがあ るというくらいで、家族がいる場合はほとんど自宅で介護を行っている。
近年は、核家族化が進み施設介護のニーズが顕在化しており、民間企業による介護施設が設立・運営されつつあるが、量質の共に供給が需要に追いついていないと言える。2021年現在、民間の老人ホームの数はベトナム全土で15-20件にすぎない。
ベトナム介護業界の問題点
ベトナムは国内の介護ビジネス市場自体が未成熟であり、多くの構造的な問題を抱えている。
①国家国民の介護支援への意識が低い
- 2009年に「高齢者法」を制定。
- 高齢者ケアは、その子孫または扶養者が行う必要があると記載され、積極的に第三者に介護を依頼しようと考える家庭は多くない。また、要介護者(両親)を介護施設などに入居させる事に親不幸という意識が根強く残っている。
- 未だ国内において高齢者介護に関する概念が無く、 実際の医療現場では看護師がその役割を果たしている。
②介護専門人材の育成制度が無い
- 医療系教育機関に介護教育課程が無く、あくまで看護領域における介護教育内容と位置づけられてる。
- 高齢者の介護専門職が存在しない。
- 基本的な指導法が確立しておらず介護サービス品質が一定化しない。
③従事者の教育・労働環境が未整備
- 介護士及び介護ビジネスとしての認知、浸透度が低く、なり手の就業意欲・機会に恵まれない。
- 海外からのEPAプログラム卒業者が後進の指導に当たっているが、依然として介護人材不足。
- 民間介護施設での入居者介護は、短期大学等の2年課程の看護教育を修了した看護師が担っている。介護基礎教育を受けておらず看護の延長線上での介護を行う。
- 都市部を中心に核家族化が進み、地方都市に暮らす高齢者に対して、Ho Ly(家政婦)に依頼せざるを得ない。この家政婦の労働条件は悪く離職率が高い。 排せつ介助や排せつ物の処理、身の回りの世話が主要業務。
④社会保障制度が弱い
- 政府が介護施設の重要性を十分に認識していない。
- 国内に100施設ほどの施設があるが、40%は民間企業が実費で運営している。
- 日本と同様の公的介護保険は導入されることはない(だろう)。
- 日本のような医療・介護偏重の社会インフラを構築せずに、予防重視のアクティブエイジング型のインフラ構築に向かう。
⑤低い国民所得と経済負担
- 民間介護施設の費用は田舎では入居費用は日本円に換算すると毎月3万円~4万円程度。
- 一方で、都市部では5万円~8万円程。
- 実際は80%を親族が負担し、10-20%を年金や貯蓄で賄っている。
- 双方ともにアッパーミドル以上の所得者層でないと利用できない。
主要サービス
①入居型介護施設
入居型の介護施設の数は国内に100-150ほどしかなく、需要に対して給が明らかに足りていない。サービスとファシリティレベルが一定以上の高級施設は現地民間企業や外国資本が運営しており、全体に対して約30%程度と推測。一方で、行政の公的介護施設や地域のチャリティ団体が運営する慈善施設は、介護師関連の専門資格を持たない従事者がほとんどで、看護師や医師が常駐し支援している機関は極めて少ない。
●BNTD・ティエンドゥック/(ベトナム民間)
ベトナム国内に6箇所(ハノイ4・ブンタウ2)の民間老人ホーム「Trung Tâm Chăm Sóc Người Cao Tuổi Bách Niên Thiên Đức」と日本・台湾向けの看護研修生育成業を運営する最大の介護チェーン。18年以上に渡って運営されており、無料のケアを受けている高齢者20名を含む300名以上の高齢を抱える。生活介護に加えて医療的サービスも行う福祉と医療・看護の機能を併せもつ。
NOTE
- 日本とドイツの介護モデル基準に従う。
- 2018年に日本外務省から日越友好の強化に貢献した功績を讃え功労賞を受賞。
- ODA案件で医療・介護資機材購入費として無償資金協力を得ている。
●株式会社桜梅桃里(日本)2017-
2017年よりビンズオン省で60床規模の民間介護施設「Trung Tâm Chăm Sóc Sức Khoẻ Người Cao Tuổi Hoa Sen Nhật Bản」をオープン。日本式の介護を現地介護従事者にトレーニングを行い、介護ベットも日本メーカーを採用。日本人マネジャーが駐在。
●ケア21(日本_大阪)2021-
大手介護事業者。2019年からベトナムの技能実習生の受け入れを開始。2021年にハノイ市に介護施設を建設する。
②訪問型サービス
ベトナムでは家政婦を雇う訪問型介護が主流で地場ブローカーが多い。
●さくら介護ベトナム(日本)2012-
https://sakuracarewill.com/ja/
日本の訪問介護サービスのFC大手。2012年からホーチミン市で富裕層向けの訪問介護「Sakura Care Will」を開始。2014年より”さくらケアウィル”というメイドサービス開始したが、現状で介護サービスの利用実績は少なく殆どが家事メイン。タイのバンコクでも同サービスを提供。
NOTE
- メイドサービスは家事全般から介護やペットケアを含む。市場価格の2倍-3倍の120,000-600,000VND/時間をチャージ。
- タイでも2014年から事業展開しており、家事代行で認知を高めて介護事情へ繋げるモデル。11拠点のうち10店FC化。
●ポラリス(日本_兵庫)2020-
日本で自立支援特化型のデイサービス施設運営。2020年よりベトナムで自立支援介護のサービスを開始。JICA案件。
③人材斡旋
- 介護ライセンスを持つベトナム側の送り出し機関
トコンタップ社、CEO社、ティンロン社、仁愛国際社、など20社 - 日本側のEPA受け入れ業者
のぞみグループ、ウェルグループ、愛仁会、福寿会、北叡会、青山ケアサポート、エフビーホールディングス、ベネッセスタイルケア、ポラリス、さわらび会、福岡光明会松月園、社会福祉総合研究所
④IT・スタートアップ
医療機関の業務改善や遠隔診療などのヘルステックはあるものの、介護・福祉寄りのテックサービスは日系スタートアップ「Care For」一社のみ。
- EDoctor:患者と医師を繋ぐリモート問診アプリ
- Med247:オンライン薬局、医師検索、病院予約ができるO2Oアプリ。
- Jio Health:総合医療アプリ。遠隔医療、薬歴管理、プライマリケア、慢性疾患管理、小児科、および補助医療サービスなどの包括的インフラ。
- CareFor : 国内初の高齢者医療・介護のプラットフォームサービス。B2Cサービス。高齢者及びその家族へ最寄りの介護施設・老年病院・訪問医療、看護、介護のサービスプロバイダーをマッチさせる。
所感・検討事項
- 高齢者のQOL改善に傾注しすぎると際限が無く、介護者の労働コストが爆上がりする。
- ユーザー(高齢者・家族)が求めるのは本当に日本品質の高スキルな介護サービスなのか?
- 消費者は購入決定要員として、より良い品質、より良いケア体験、手頃な価格を求める。
- 社会的問題解決と安定した収益性確保のバランスが重要。
- ベトナム農村部は日本と比べて家庭内での介護人材リソースが足りているのでは?
- 訪問介護は介護事業の中でも特に収益率が低い。成立するのか?
- 入居型施設は地方であっても投資回収まで7-15年はかかる。土地の価格上昇に合わせて家賃負担は大きくなので、大きく利益を確保できない。
- 大局的には介護サービス事業者と介護人材の数を増やすこと。
- 富裕層向けに絞ってサービスを提供する意義があるのか?何の問題解決なのかわからない。橋頭堡にはなる。
- 富裕層だからと言って高いサービスフィーが発生する産業では無いのでは?
- 運営者観点だと、ベトナム国内で看護・介護人材を育成できれば、わざわざEPAで3年・4年の時間を費やす必要はない。
- 今後、日本側のベトナムからEPAの受け入れ増加に伴い、リバースモデルでベトナムでの施設経営に乗り出すケースが増えるはず。
- 英語圏ですら無い日本の介護・看護市場に対して、ベトナム人の出稼ぎ人材を送り出すこと自体に整合性が無い。
- ベトナムの介護産業はまだ十分な収益が見通せず、ビジネスモデルを確立させてから、市場の成熟を待つしかない。
- 労働集約型産業であり、スタッフが変われば、サービスの質にばらつきが出る可能性がある。情報システムを立ち上げ、入居する高齢者の趣味、病歴、生活習慣などをいつでも検索できる情報システムを構築すべき。
- ケアにおけりスキル育成・品質担保は日本モデルを参考に、ビジネスモデル自体は公的介護システムが無いアメリカなどを参考に。
ビジネスモデルの検討
①介護施設の運営
- クラウドファンディング型で小口の投資家を募って運営。
- そもそも、スケールメリットが全く無いので社会意義に傾注して運営が厳しい。
- ランコストの上昇に耐えられない。
- 客単価×部屋数+付加サービス
②医療専門メディアの運営
- 地域ごとの公的支援内容や訪問介護事業者、療養施設のレビューを一元掲載。
- ベトナムで訪問、療養ともに一括検索できるサービスが無い。
- 米国のCaring.com
- 日本のみんなの介護
- ビジネスサイドからの広告収入及び送客支援手数料。
- 新規施設開業へのコンサルティングへ繋げる。各種事業者のクラウドマッチング。
③インスタ啓蒙メディアの運営
- ベトナム語特化のインスタ”ヘルスケア&ビューティ”メディアを運営。
- Covid-19による健康意識の高まりを背景に、健康に役立つ総合的なコンテンツをベトナム語で投下。
- 有名モデルやスターとコラボ。
- 今後、インスタは地域での検索、レビュー確認、予約・購入まで機能拡張される。
- 影響力と認知を取ったあとで、自社サービスのステマや他者広告案件へ繋げる。
④訪問型(デイケア)
- 一般的には訪問介護は補助金なしでは儲かりにくい。
- 地域特性以外にサービスを差別化しにくい。
- 介護特化だと供給サイドの量質が足りない。
- 高付加価値業では無いのでケアサービス自体の価値(高い格)を訴求しにくい。
- サブスクモデルでリース医療機器、オンラインシステム利用、ケアサービスの3つを月額課金する。
⑤介護事業者・医療機関向けのSaas開発
- 資金力がある地場民間事業者、外資事業者向けにクラウドシステムを開発・提供する。
- 高齢者の入院、治療、持病、リバビリ、個人情報などを一元管理して介護、医療、自宅の3つを横断的に管理するシステム。
- ビジネスサイドから毎月課金。
⑥プラットフォームの運営
- 旧来型のプラットフォーマーとして介護需給のマッチングを行う。
- 介護サービス利用者は勿論、事業者も経営が厳しい状態でマネタイズが難しい。
- 今は介護者サイドの人材供給数が圧倒的に足りていないので、家事・家政婦とした広い間口から入ることも可能。

本記事はヘルスケア市場調査の初期段階で頭を整理するために書いたドラフトレベルです。
もっと具体的な話に興味がある方はご連絡頂ければ、対応致します。
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